二〇二〇年の東京五輪・パラリンピックで、廃棄される家電の電子部品に含まれる金や銀をメダルの材料にしてもらおうと、行政や研究者らが取り組みの輪を広げている。会場整備の費用の膨張が問題視される五輪。メダルはキラリと輝く「再利用」ができるのか-。 (増井のぞみ)
家電に含まれる金属は、「都市鉱山」とも呼ばれる。昨年六月、リサイクルに力を入れている岩手県一関市など東北地方の三市が東京五輪・パラリンピック組織委員会に「日本のリサイクル技術を世界に示せる絶好の機会」と回収金属の活用を提言。今年七月には組織委の計画に「都市鉱山を活用したメダルの製造を検討」と盛り込まれた。
環境に配慮した材料の研究をする一般社団法人エコマテリアル・フォーラム(茨城県つくば市)も七月、メダルに回収金属を使ってもらうため、組織委に提出する署名をウェブサイトで集め始めた。目標数は、三十二万筆だ。
最も身近な家電である携帯電話には一台平均〇・〇三グラムの金が含まれている。金メダルは、銀などの本体に金メッキを施して作られる。一二年のロンドン五輪では九・六キロの金が使用された。このロンドンの数字をもとに、東京五輪・パラの金メダル約一千三百個分の金を確保できる携帯電話の台数として、三十二万という数字をはじき出した。つまり署名した人が一台ずつ提供すればまかなえる。
ただ廃棄物を使っても、五輪のために新たな流通経路をつくる費用などが必要で、天然資源より安価になるというわけではない。同フォーラムの原田幸明(こうめい)会長(64)は「再資源化は、採掘やごみ廃棄をしないことが環境にとって非常に優れた形」とコスト以外の利点を強調する。自分が提供した携帯電話がどの種目に使われたのか追跡できる技術も開発したいという。
環境問題に取り組んでいる早稲田大のサークル「環境ロドリゲス」は在校生に呼びかけ、今秋の文化祭で小型家電を回収する。今後は卒業生や全国の大学にも声を掛ける予定で、副幹事長の古賀一紗(かずさ)さん(21)は「五輪やパラは選手だけのものではない。一般の人もメダルづくりに関わることで、日本全体で機運を盛り上げていければ」と話している。
<五輪メダルに使われる金属> 2004年までの五輪憲章は金メダルは銀製とし、最低6グラムの金でメッキを施すことなどを求めていたが、現在の憲章には細かな記載はない。2012年のロンドン五輪でメダルに使われた金属は金が9・6キロ、銀が1210キロ、銅が700キロ。日本では14年実績で小型家電から金143キロ、銀1566キロ、銅1112トンを回収した。計算上では現段階でも回収分で五輪の全メダルをつくることが可能。リオデジャネイロ五輪でもメダルの一部にリサイクル貴金属が使われた。